
ナムジュン・パイク「じゅげむ展」に行ってきました
東京のワタリウム美術館で開催されている「没後20年 ナムジュン・パイク|じゅげむ展」に行ってきました。
ナムジュン・パイクは、テレビや映像を早くから作品に取り入れた、ビデオアートの先駆者として知られるアーティストです。名前や作品は以前から知っていましたが、まとまった展示を見るのは今回が初めてでした。
展示見た感想としては、めちゃくちゃ良かったです。
古いブラウン管テレビ、植物、魚、ロボット、ろうそくなどが組み合わさっていて、見た瞬間に「何だこれは」と楽しくなります(岡本太郎みがありますね)。現代美術というと、説明を読まないと分からなくて身構えてしまうこともありますが、パイクの作品は、何も考えず見て楽しめます。テレビが植物の中から生えていたり、水槽の中で本物の魚と映像が重なったりします。
テレビと自然がごちゃ混ぜになった不思議な世界

会場は2階から4階まであり、それぞれ「森」「縁」「心」をテーマに作品が構成されていました(後でAIに教えてもらいました)。
特に印象に残ったのが、植物の中にたくさんのテレビが置かれた《TV Garden》です。今では映像と植物を組み合わせた展示は珍しくないかもしれませんが、パイクはずっと前から自然とテクノロジーを同じ空間に置いていました。
テレビを自然の反対側にある人工物として扱うのではなく、植物や動物と一緒に生きる奇妙な生物のように見せているのが面白いです。古いブラウン管が苔むした石やキノコのようにも見えてきます。
生きた魚が泳ぐ水槽に映像を重ねた《TV Fish》も面白かったです。本物の魚の向こう側に人の映像が流れていて、魚と映像のどちらを見ているのか分からなくなってきます。画面と現実をきれいに分けられない感覚は、スマートフォン越しに世界を見ることが増えた現在では、さらに身近なものになっていますね。

人間の仕事を増やすロボット

個人的に気になったのは《ロボットK-567》です。1964年に制作されたアートロボット《K-456》の娘として、1993年に作られた作品とのことです。
作品の説明には、人間のように歩き、歌い、排泄すると書かれていました。そしてパイクは
普通のロボットは人間の仕事を減らすために作られるが、自分のロボットは人間の仕事を増やすためにある
という趣旨の言葉を残しています。
私はAIやロボットを触る機会が多いのですが、便利にするためのはずの技術が、なぜか人間の作業や確認を増やしていくことはよくあります。今の生成AIやロボット開発にもそのまま刺さる話で、30年以上前の作品とは思えませんでした。パイクの先見性の高さに驚くばかりです。
よくみると、ブレッドボードに回路が組んであり、それらしいモーターもついていたので、多分昔は動いていたんだろうと思います。動いているK-567みたかったですね。
ろうそく一つから空間全体へ映像が広がる

最後のフロアでは、ろうそくとテレビを組み合わせた作品や、一本のろうそくをカメラで撮影し、三原色の映像として壁面へ投影する作品が展示されていました。
やっていることだけ説明すると、とてもシンプルです。ただ、暗い空間の中で一つの小さな炎が赤、緑、青に分かれ、壁いっぱいに増殖している様子はずっと見ていられます。実物の炎は一か所にあるのに、電子的な像は空間全体へ広がっていきます。
身体は一か所にとどまりながら、情報や意識はネットワークを通して世界中を移動する。パイクが1980年に示した「定在する遊牧民」という考えにも通じるように感じました。今なら、自宅にいながら世界中の人と仕事をしたり、遠くの会議やイベントに参加したりする状態ですね。パイクがインターネット普及前にこうした未来を考えていたのは驚きです。
落合陽一先生にもつながっていた
展示を見たあと、パイクがどんな人や作品へ影響を与えたのか調べてみました。映像を使ったインスタレーション、リアルタイムカメラ、巨大な映像投影など、現在のメディアアートへつながる要素がたくさんあります。
身近なところでは、落合陽一先生がパイクの「定在する遊牧民」を明示的に引用しています。デジタル化によって身体が複数の場所へ広がっていく状態を、コロナ禍以降の生活、脱炭素、民藝や自然との関係へ発展させています。
最初は「落合先生の作品と雰囲気が似ている気がする」くらいの感覚でしたが、AIに聞いたらここらへんのつながりを教えてくれました。その他、会場で撮った写真や動画をAIに入力したら、AIが解説してくれました。
会場では見た目の勢いに圧倒されて通り過ぎた作品も、あとから作者の言葉や他の作品との関係を知ると、印象が大きく変わります。もちろんAIは作品を見間違えたり、似た作品名を混同したりするので、展示ラベルや公式資料による確認は必要ですが、写真を手がかりに質問しながら鑑賞体験を延長できるのは便利でした。
まとめ
「没後20年 ナムジュン・パイク|じゅげむ展」の感想でした。見ているだけでも楽しく、背景を知ると未来のネットワーク社会や人工知能、ロボットとの関係まで見えてくる、とても面白い展覧会でした。
半世紀以上前の作品が、古びるどころか時代が進むほど新しく見えるのが不思議です。展覧会名の「じゅげむ」には、作品が寿限無のように長く生き続けてほしいという思いが込められているそうですが、本当にこの先も解釈を変えながら生き続ける作品なのだろうと思います。
会期は2026年11月23日までです。テレビ、人工知能、ロボット、メディアアートに興味がある人はもちろん、難しいことを抜きにして変なものを見て楽しみたい人にもおすすめです。
参考リンク
没後20年 ナムジュン・パイク|じゅげむ展(ワタリウム美術館)
没後20年 ナムジュン・パイク|じゅげむ展(artscape)