家庭用ロボットは実現するか?天才集団PFNの「Learn or Die」と夢想家集団の「ドラえもんを本気でつくる」を読んだ感想

「Learn or Die」と「ドラえもんを本気でつくる」を読みました

 ロボット x AI関係で面白い本を2冊続けて読んだので紹介したいと思います。

ドラえもんを本気でつくる (PHP新書)

ドラえもんを本気でつくる (PHP新書)

 1冊目は日本のAIベンチャーの雄であるPFNことPreferred Networks社の創業者の西川さん、岡野原さん2人の書いた本「Learn or Die」、もう一冊は、ドラえもんをつくる夢をもつ大澤さんという方の書いた「ドラえもんを本気でつくる」という本です。両方とも、ロボットやAI(ディープラーニング)に興味ある人は必読の内容です。

「Learn or Die」

 PFNはディープラーニングをまともに勉強したことのある人なら1度は聞いたことがある会社でしょう。唯一、世界で戦える国産のディープラーニングのフレームワーク「Chainer」にお世話になった方も多いのではないでしょうか?私も最初は「Chainer」からディープラーニングをはじめました(当時は、TensorFlowよりセットアップが簡単だった)。

 以下は、私が5年ほど前に、初めてブログにディープラーニングの技術的なこと書いた記事です。

 Chainer使って、訳も分からずMNIST動かして「なるほど、わからん」と言っています(笑)

 現在は、PFNは主要のフレームワークを「Chainer」から「PyTorch」に切り替わる判断を下した訳ですが、それでもディープラーニングの界隈で、重要な位置を占める企業であることは変わりません(むしろ今後ますます強くなっていくかも)。

 そんなPFNの創業者が書いた本。ディープラーニングに関わる人なら必読ですね。まず印象的だったのは、最初の方に書いてある一文です。

今の日本は、ソフトウェアで負けている。だがこれからはソフトウェアとハードウェアの境界が曖昧になり、融合していき、新たな分野が生まれていく。そこでは我々が勝てると考えている。

 これは私も非常に強く感じていて、言い続けていることの一つです。私の場合は、ソフトウェア・ハードウェアはもちろん。リアルとバーチャル、リアルとオンラインというのものの境界も曖昧になっていって、区別することすらできなくなっていくと思っています(バーチャルとリアルに関しても、書籍の後半で同様の表現があります)。その境界に新しさや価値があるというのも同意ですね、私の場合は勝てるというか、自分がそこでなんとか生き残れるかもしれないという程度の消極的かつ意識の低いものですが…

 そして、この本ではソフトウェアとハードウェアが融合した新たな分野として、ロボティクスを上げてPFNは今後ロボットの開発に大きな力を注ぐと明言しています。

 ディープラーニング(AI)とは何かというところから、初学者にも分かるように丁寧に書かれてはいますが、基本的に内容が高度でなので、詳しい人でも「なるほど」と唸るようなするどい表現や、新たな知見があるのではないかと思います。逆に全くこの分野のこと知らない人はチンプンかもしれませんので、AIを分かりやすく説明してほしい方は、先に「ドラえもんを本気でつくる」を読んだ方がよいと思います。

 全体的に意識高く、ぶっ飛んでいて(褒め言葉です)「PFNは失敗を推奨し成功率10%以下の課題に挑み続ける」とか「問題が起きたらすぐ取り掛かり、5分で解決したい」とか「500歳まで生きるから500年続く会社にしたい」とか過激な 表現がポンポン出てきます。タイトルからして「Learn or Die(学ばないなら死ね)」ですからね。

 この天才集団が、その高い技術力でどのようなロボットを今後作っていくのか楽しみな本でした。

  

「ドラえもんを本気でつくる」

 「ドラえもんを本気でつくる」(以降ドラつく本)は、同じロボット x AIに関する本でも「Learn or Die」とはかなりアプローチも毛色も異なる本です。

 「Learn or Die」と同じく、AI(ディープラーニング)に関する説明が冒頭にかなりのページを割いて書かれています。こちらは、本当にAIを知らない人でも分かるようなより平易な表現で書かれています。なので、AI知らない人はこちらを最初に読むと良いかなと思います。逆に、ある程度詳しい人の場合はほとんど知っている内容になるので、AIに関する箇所は読み飛ばしても良いかと思います。

 「ドラえもん」を作りたいと公言する、ドラつく本筆者のロボットを開発するアプローチもPFNとは大きく異なります。PFNが人間と変わらないような「強いロボット」とでもいうべきものを目指している(と自分が感じた)のに対して、ドラつく本では「弱いロボット」を作りたいと書かれています。

 「弱いロボット」というのは、詳しくは本を読んでもらえば良いのですが、一言で言うと「人に助けてもらわないと働けないロボット」だと私は理解しました。具体例として出ていたのが、豊橋技科大のゴミ集めロボットです。

 実はこのロボット、一昨年くらいのロボカップという名古屋の展示会で実物をみたことがあります。以下はそのとき撮った写真です。

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 このロボット、ゴミ箱の形をしたゴミ集めロボットなのに、自分ではゴミを拾うことができません。代わりに、ゴミの近くまで行ってモゾモゾするのです。それをみて、周りの人が「仕方ないなー」と思ってゴミを捨ててくれるという、なんとも情けないロボットです。

 でも、この積極的に人に助けてもらうアプローチは、なかなか面白いなーと思ったりします。今、家庭用ロボットで唯一成功していると言って良い掃除ロボットの元祖ルンバも、障害物あったらすぐ諦めてしまうので、人が仕方なくルンバのために片付けている側面があり、ある意味「弱いロボット」と言えるのではないかなと思います。

 すなわち、普及するような家庭用ロボットのシステムには、人の助けも含めた設計をする(機械学習分野で言うところの Human in the loop)ことが重要なのかもしれないな、と漠然と思ったりしました。

まとめ

 ロボット関係で読んで面白かった本を2冊紹介しました。個人的にロボットに興味があって好きなので非常に面白く好きでした。ロボットに興味がある人にもAIに興味がある人にも、どちらも読んで面白い本だと思います。特にAI関係の人なら「Learn or Die」は外せないかなと思います。

 将来、家庭に普及するロボットの姿、どのようなものになるのでしょうね。超絶高度なソフトウェアを持った「強いロボット」なのか、人の助けを求める「弱いロボット」なのか。ちなみに、私はどう思うかというと…超絶技術を持った「ドラえもん」を自分で作ってやる!と密かに思っていたりします(笑)期待しないで待っていてください。

ドラえもんを本気でつくる (PHP新書)

ドラえもんを本気でつくる (PHP新書)

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