囚人のジレンマとして考える新型コロナウイルス感染症

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新型コロナウイルス感染症の感染拡大の問題は囚人のジレンマなのか?

 以下の新型コロナと囚人のジレンマに関するツイートへの反応が結構大きかったです。

 色々リプライもいただいたのですが、あまりに数が多く個別の反応はできませんでした。興味深いリプライとかも結構あったのですが、ツイートだけだとあまりに説明不足かなと感じる反応も多かったので、自分の考えの整理も兼ねて簡単にブログで補足をしたいと思います。

 ちなみに、これはあくまで「新型コロナウイルスのある時点での感染拡大の状況を思いっきり単純化すると、こういった考え方もできる」といった思考実験で、新型コロナウイルス感染症の推移を予測したり、全ての現象を説明するものではないことはご了承ください。

 また、内容はできるだけ正確を記すことを心がけていますが、私自身は感染症の専門家でも、ゲーム理論の専門家でもないので、内容に間違いがある可能性はあることご容赦ください。もし、間違いなどありましたらそっと教えていただけるとありがたいです。

囚人のジレンマとは何か?

 囚人のジレンマに関しての説明は、Wikipediaを参照ください

 Wikipediaから引用して簡単に説明すると、2人の囚人がいて、2人にそれぞれ個別に以下のような取引を持ちかけるという条件のゲームです。

  • 本来ならお前たちは懲役5年なんだが、もし2人とも黙秘したら、証拠不十分として減刑し、2人とも懲役2年だ。
  • もし片方だけが自白したら、そいつはその場で釈放してやろう(つまり懲役0年)。この場合黙秘してた方は懲役10年だ。
  • ただし、2人とも自白したら、判決どおり2人とも懲役5年だ。

 この関係を表にすると、以下のようになります。

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 囚人のジレンマのWikipediaより引用

 このゲームの元では、2人とも協力して黙秘するのが、一番2人とも幸せになる状況(パレート最適と呼ばれる最適解)になります。ただ、相手が協力してくれるかわからない状況で、このゲームを何度も行うとすると、お互いが自分の利益を最大化することを考えると裏切った方が戦略上は有利になったりもします。そのため、ゲームを繰り返すと、お互い協力したり裏切ったりする状況で均衡状態に陥る現象がみられます。

 この状況をナッシュ均衡と呼びます。余談ですが、このナッシュ均衡を考えたジョン・ナッシュ大先生はビューティフル・マインドという映画の主人公にもなっている人物です。また、囚人のジレンマは、ゲーム理論という理論のうちの1つのゲームなのですが、ゲーム理論を考えたのは、今のコンピュータの基礎を作ったジョン・フォン・ノイマン大先生です。この人はめちゃくちゃすごい天才なのですが、その話はまたいずれ…

新型コロナウイルスの感染拡大状況を囚人のジレンマとして考える

 この前提を元に、新型コロナの感染拡大状況を囚人のジレンマとして考えるとどうなるかというと…既に5月ごろに、経済の専門家である西條先生が、非常に簡潔に説明してくださっていました。正直、自分1人で考えたときは、これほどうまくまとまっていませんでした。以下記事参照ください。

 新型コロナウイルスの感染状況において、先ほどの囚人のジレンマと同様に表を作ると以下となります。

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 コロナゲームはタカハトゲーム?より引用

 数字の意味の詳細は、リンク先記事を参照ください。重要なのはこの表の関係が、囚人のジレンマと同じになっていることです。よって、参加者全員が自分の利益の最大化を考えると、みんなで協力(自粛)し続けて感染が収束するという状況(パレート最適)にならず、お互い協力(自粛)したり、裏切ったり(外出)を繰り返すナッシュ均衡に陥ります。

 ただ、新型コロナウイルスでより複雑なのは、当然全ての人がこの表の関係になるわけではないことです。職種や、年齢によって大きくこの数字は変わります(協力したくてもできない人もいるでしょう)。感染の拡大度合いによっても、数字は動的に変わると思います。極端な話、新型コロナウイルスの感染拡大を収束させることをゴールとしていない人もいるでしょう。また、ワクチンが開発されて普及したら大きくゲームの様相が様変わりします。あくまで、新型コロナの感染状況の一時期を切り取って、多くの要素を切り捨てた超簡略化したモデルとしてとらえてください。

 このモデルで最適解(パレート最適)にたどり着く方法を考えると、大きくは以下の3つのアプローチが考えられます。

  1. 参加者全員がお互いを強く信頼し、全員で協力する(ex: 自主的な自粛)
  2. お互いが協力するメリットを、裏切るメリットより多くする(ex: 政府による給付金などの支援等)
  3. 裏切るときのデメリットを大きくする(ex: 強制的なロックダウンと外出者への罰則等)

 といっても、自粛続けるのも疲弊しますし、お金には限りがありますし、強権を発動するような方法は民主主義国家では通常できないのが難しいところですね。

 なので、感染の拡大を抑えられている国は、独裁的な要素の強い国が多いです(具体例は控えたいと思います)。台湾とかは、例外的にうまく感染拡大を防いだりはしているのですが、「なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか」という書籍を読んだところでは、国全体として感染症に対して強い危機感があり、全員で協力する体制ができていたのと、日本に比べれば、ずっと強力に国による強制力を行使できる体制(上の1と3のアプローチ)ができていたのかなと思います。

まとめ

 囚人のジレンマとして新型コロナを考えるという思考実験をしてみました。かなり乱暴なモデル化ではありますが、個人的には現在の感染拡大状況の本質を捉えているモデルなのではないかなと感じたりしています。

 我々が新型コロナウイルスという牢獄に囚われた囚人だとすると、抜け出すことができる日はいつになるのでしょうね。その日が早く訪れることを願っています。

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